あなたは現場で症状の評価ができる
1)症状の見分け方として最も大切なことは「重症度」と「緊急度」を評価することです。
「重症度」:外傷などでどれだけ生命に脅威を与えているかの程度で、その傷病そのものの「重さ」を言います。
「緊急度」:その脅威がどれだけ切迫しているかの尺度で時間的猶予がない場合と症状が変化するスピードの速さが予測された場合を言います。
例えば、頭を打って意識障害ある時、大量出血してショック状態の場合は重症度、緊急度が高く迅速に救助要請を出す必要があります。
手足の骨折がある場合は重症度も緊急度も高くはないが、開放性骨折の場合は骨髄への感染(骨髄に細菌感染すると骨がつかなくなる)の可能性が高くなるので重症度も緊急度も高くなります。
2)生命、機能に直結する傷病とは何か?
「生命」:脳、脊髄、肺、心臓、腹部などの損傷及び病気で重症度、緊急度が高くなる場合が多い。
「機能」:骨、筋肉、靭帯などの運動機能を要する損傷で重症度、緊急度はそれほど高くならない。
3)重症なのか軽症なのか(灰色に近い)
判断に迷った時: 判断は医療関係者でもないあなたがするわけだから悪い方に判断した方がいい。
例えば骨折を疑われたらその部位をストックなどで強固に固定し下山させた。
しかし病院でレントゲンを撮ったら骨折は認められなかった。
それは不正解ではなく適切な判断であったと考えるべきでしょう。
山の中という環境の中での判断は間違ってはいなかったと、レントゲン撮るまで骨折とわからないことは沢山あります。
4)ショック状態とは何か?
全身観察の順序:
1. 意識があるか、心臓や呼吸が正常化か?
2. 何処が一番苦痛なのか、出血はあるのか?
3. 原因は何か、病気なのか、外傷なのか?
上記の3つを知ることが大切だが、これに生命をおびやかすショックを伴うと緊急度は非常に高くなります。
収縮期血圧が80mmHg以下に下がった状態になり、血圧が下がるために顔面蒼白、冷汗、呼吸の異常、脈拍が少なくなる、虚脱状態(無気力で脱力した状態)の症状を呈します。
ショック状態を知る方法として、爪をつまんで母指で押して離した時に2秒以上かかっても爪の色(ピンク)が戻らない時はショックの徴候です。(爪床圧迫法)図 参照
ショックを起こす傷病として考えられること
1. 大量出血による出血性ショック
2. 心筋梗塞による心原性ショック
3. 脊髄損傷による神経原性ショック
4. 感染による敗血症性ショック
5. アレルギーによるアナフラキシーショックなどがある。
5)傷病者の症状を評価したら次は?
それは重症で緊急性の高いものと時間的に余裕があるものに分けられる。
前者は救命処置を必要とするかもしれない、そのためには蘇生法などを知っておく必要があります。後者はもう少し傷病者の症状をみる必要があり、そのためには五感を使って状態を把握したい。
ここで知っておかなければならないのは基礎的医学知識の解剖学、生理学などで、これを知ることによってFAのエビデンス(根拠)が得られます。
山の中であなたが迅速な評価をくだすのは簡単ではありません。
重症か軽症か判断するには最初の「パッと見の第一印象」が大切です。
血だらけになってる、痛みに苦痛の様子、応答がはっきりしないなどの見た目の症状の重さは10秒でわかるはずです。
重症度が高いと直感的な印象を持ったら慌てることなく次の手順を考えて行動することです。
「どうしよう?」と慌てるのは時間の無駄になり傷病者には良い結果になりません。
「俺がヤル!」と勇気を持ってFAを実行してください。
さあ!登山のために必要なファーストエイドの基礎的医学知識を学んでみよう!
今回のポイント
- 傷病の「重症度」と「緊急度」から評価する
- 山で傷病の重症か軽症の評価が判断できない時は重く考える
- 爪床圧迫法はショック状態を知る一つの指標
*FAの知識と処置法を知っていれば災害時にも役立ちます!大災害や戦場では沢山の負傷者が病院に押しかけますが、その時は医療環境に合わせて治療や搬送は四色の優先順位で分類します。(トリアージ)
緑(軽症)=打撲、小さな傷など歩行可能、治療を急がなくてよい人。
黄(中等症)=バイタルサインが安定している、早期の治療も必要とするが時間的猶予がある人。
赤(重症)=生命の危機があり、直ちに治療を必要とする人。
黒 =生存の見込みがない人。
冷静さと勇気と迅速な判断力を求められる場面です。
元文部科学省登山研修所専門調査委員
前日本山岳ガイド協会ファーストエイド委員長
NPO災害人道医療支援会常任理事
著書
「災害ドクター世界をいく」東京新聞
「感謝されない医者」山と溪谷社
「トムラウシ山遭難はなぜ起きたのか」山と溪谷社