骨と筋肉は体を支える柱と動力
体を動かすためには様々な要素があります。
体を動かすための骨、関節、筋肉のメカニズムを学びましょう。
骨とは
骨は、体を支える屋台骨であり、カルシュウムを蓄えています。
構造は、骨皮質(硬い所)と骨髄(海綿質)からできていて、骨皮質の上を骨膜という膜に覆われています。
骨髄では、「血液」が作られます。
全身の骨の数は206個あり、骨には骨を作る「骨芽細胞」と、骨を溶かす「破骨細胞」で、常に新しい骨を入れ替えて、その強さを保っています。
骨を作る細胞と骨を壊す細胞は、一定のバランスを保っていますが年齢とともに(特に女性)そのバランスが崩れ、「骨粗鬆症」(こつそしょうしょう:骨がもろくなる)になり、骨の強度が弱くなるため、転倒などで骨折しやすくなります。
高年者が山で転倒すると腰椎、手首、股関節の骨折をみることが多いのはこのことです。
骨折とは
骨折は、直接・間接的に加わった外力により、骨の連続性がたたれ、変形になり骨の強度が弱くなったものを言います。
骨折の種類
1)外傷性骨折:外力によって起った骨折
2)疲労骨折:繰り返し同じ場所に外力が加わったために起こる
3)病的骨折:骨の病気で折れてしまう
折れ方によっても、横骨折、縦骨折、斜骨折、螺旋骨折、粉砕骨折などあるが、これはレントゲン撮るまでわからない。ただ、骨折とともにそれに付属する損傷があるので、注意しなければならない。例えば、肋骨を多数折ったために肺に損傷を与え、血管や神経に損傷を与えることがある。山中で区別しなければならないことは、骨折が皮下で折れた皮下骨折か、折れた骨折部位が皮膚を突き破った開放性骨折なのかを、見極めることが大切である。
骨折の治る過程には3期ある
1)炎症期
骨折したところに炎症を生じ、約1週間程度は周囲に出血し、血の塊を作ります。この血の塊に新しい毛細血管ができて来ます。
2)仮骨形成期(仮の骨)
血の塊から肉芽組織(若い肉の盛り上がり)というものに変わり、そこに柔らかい繊維性の仮の骨(軟骨形成)ができます。そして石灰の沈着が起こり、仮の骨(仮骨形成)ができます。
3)リモデリング期
骨折の部分は治った状態ですが、骨折以前の形と同じように骨折部分を整えられます。(図 参照)
*骨折の治るまでの期間(骨がつく期間)は、骨折した形状によって異なるが、平均して約3〜5週間かかる。
関節とは
関節には、股、膝、足関節などの体重のかかる関節と、肩、肘、手首などの体重のかからない関節があります。
体重のかかる関節を「荷重関節かじゅうかんせつ」と言います。
登山では、この荷重関節にかなりの負荷がかかっています。
関節の曲げ伸ばしは、屈筋と伸筋によって起こります。
体重のかかる骨の骨折、関節の捻挫の場合は、歩行させて下山すると悪化します。
関節は、その形状によって動きが異なります。
例えば、肩、股関節は「球関節」と言われ臼のような受け皿に球のような形状になっているため、関節の動きの範囲が多方向です。(図 参照)
股関節は、6方向に動く関節です。
膝関節は、蝶番関節(ちょうばんかんせつ)と言われ、屈曲(曲げる)と伸展(のばす)の2方向しか動きません。
関節の動く範囲は、「可動域」(かどういき)と言います。
捻挫とは、この可動域の許容範囲を超えて動き、関節をつないでいる靭帯が伸びたもの、あるいは切れたものを言います。
関節周囲の骨折は、リハビリに時間がかかり、可動域に障害を残すことがあります。
関節周囲の骨折のみならず、この関節を動かす骨格筋、付属する靭帯、関節包(関節を包んでる袋)などの損傷で、関節可動域が制限されることがあります。
肩関節の可動域は、大きく動くために不安定な要素にもなり、転倒などで「脱臼」しやすいという欠点もあります。
膝関節は、人間のクッションの役割をします。
登山では、特に下りでの膝への負荷が大きく、下山後周囲筋肉の痛みを感ずることが、しばしば起こります。
膝関節は、左右にぶれない様に内側、外側に側副靭帯があり、前後にずれない様に十字靭帯、クッションの半月板、関節内に滑液という潤滑油があります。
関節表面が厚い軟骨で滑らかな動きができるようになっています。(図 参照)
山道で膝をくの字にひねって転倒すると、靭帯を損傷することがあります。
関節内で出血するために、関節内の圧力が高まり、関節がはれて歩けなくなります。
これは、膝の中での損傷が疑われる「膝内障」と言います。
人間にとって手指の機能は、非常に大事です。
手指の機能は「つまむ」「握る」の二つしかありません。
指の先から遠位指節間関節DIP(第一関節と言われるところ)、近位指間関節PIP(第二関節と言われるところ)、中手指関節MP(第三関節と言われ拳の先になります)の三つの関節によって構成されています。
指は、屈筋健(指を曲げるための腱)と 伸筋腱(指を伸ばす腱)によって操り人形のように腱を引いたり、伸ばしたりすることによって動かされています。
腱を怪我で切ると指は動かなくなります。
母指の動く範囲は、他の指より大きくなり、各指の先端と母指の先端が接することができます。
母指の怪我は、場合によってはこのつまむ、握るの動作に障害を起こすことがあります。
筋肉とは
足は縦、横にアーチ型に。(図 参照)
縦のアーチには、足底に足底筋というバネの役目を持った筋肉がついていて、体重がかかるとこれが伸び、バネの役目をして体重を吸収する構造になっている。
扁平足の人はこのアーチの角度がないので歩行で足の疲れを感じやすくなります。
骨格筋は、体を動かす動力です。
骨格筋が収縮することによって骨を動かし、関節が動き腕や足の運動が起こります。
筋肉トレーニングは、筋肉の断面積が大きくなり強い筋力が生まれます。
骨格筋は、「体熱」を作っています。
体温が下がり始めると、骨格筋の屈筋、伸筋が同時に収縮してブルブルと「ふるえ」を起こして熱を作ろうとします。
出来た熱は、筋肉内に網目のように張り巡らせられた血管を通じて、血液に熱を伝え、体温を一定に保とうとします。
歩く、登る、降りるには、大腿部の筋肉がもっとも重要です。
太ももの大腿四頭筋は、膝関節を伸ばす役割をし、大腿後面のハムストリング(大腿二頭筋+半膜様筋+半腱様筋)は、膝関節を曲げる役割をします。(図 参照)
大腿四頭筋とハムストリングの筋力のバランスが悪くなると「肉離れ」を受傷することがあります。
年齢とともに、この筋力が低下して思わぬところで転倒することがあります。
この二つの筋肉は山登りにも重要な筋肉と言えるでしょう。
この筋肉を鍛えるには、ランニングなどがありますが、負荷を少なくして鍛えるには、水泳、自転車によるトレーニングがあります。
登山前に充分なストレッチをやることは、筋緊張を和らげ、関節を動かしやすくし、筋肉の血液の流れを良くするなど怪我の予防につながります。
登山前の準備体操は必要です。
今回のポイント
- 骨は体を支える柱
- 荷重関節は登山時に負荷がかかっている
- 骨格筋は動力です
元文部科学省登山研修所専門調査委員
前日本山岳ガイド協会ファーストエイド委員長
NPO災害人道医療支援会常任理事
著書
「災害ドクター世界をいく」東京新聞
「感謝されない医者」山と溪谷社
「トムラウシ山遭難はなぜ起きたのか」山と溪谷社