登山に必要な筋肉とトレーニング方法(呼吸筋)
私たちは呼吸することによって、酸素を身体に取り入れ、二酸化炭素を体外に排出することで生活しています。呼吸は無意識で行っていることがほとんどですが、1日あたり何回くらい行っているのでしょうか。一般的に、正常な成人であれば1分間に12〜16回の呼吸を行っています。仮に1分間に15回行っているとすると、1日に24,600回もの呼吸を行っていることになります。その際に働いている筋肉が「呼吸筋」です。
酸素と二酸化炭素のガス交換を行っている器官は「肺」ですが、肺は自分で収縮することができないため、呼吸筋が収縮することで肺のガス交換を助ける役割をしています。「呼吸筋」には、肋骨の間にある「肋間筋」と「横隔膜」があり、それぞれ安静中と運動中で活動する筋肉が変わります(表1)。呼吸にはこれだけ多くの筋肉が関わっているのですが、トレーニングやケアを充分に行えているでしょうか。
表1.安静中と運動中の呼吸筋の働き
登山を行う際、運動がきつくなる登りや、標高が高くなる場所では呼吸筋の活動が増えます。さらに、ザックを背負って長時間行動を続ける登山の場合、呼吸筋は常に緊張している状態です。呼吸筋に関しても、脚や体幹などと合わせて、トレーニングとケアをしっかり行うことが大事です。呼吸筋のトレーニングやケアを続けると呼吸が楽になります。また、深く呼吸ができるようになると副交感神経(リラックスしているときに働く神経)が働き、気分もよくなります。呼吸筋のトレーニングやケアは登山を行う方だけでなく、日常生活などでストレスを感じている方へもお勧めです。
①呼吸筋をほぐす(筋膜リリース)
肋間筋を指でほぐします。
②呼吸筋を伸ばす(ストレッチ)
仰向けに寝た状態で、肩甲骨のあたりに柔らかいボール(クッションなどでも可)を挟み両手を伸ばします。そこから両手をゆっくりと下へおろします。息を止めず、呼吸を大きく行いながら続けましょう。
③呼吸筋のトレーニング方法
呼吸筋を鍛える方法は、二つあります。
一つ目は、息がゼーゼーハーハーするような高強度の運動を行うこと。例えば、ジョギングを行っている方は、途中の100〜200mを全速力で走ってみると呼吸筋のトレーニングになります。また、登山の登りでペースを上げて歩いてみることもトレーニングになります。しかし、普段行っているウォーキングや登山のペースを急に速くすると、膝や腰に負担がかかり、思わぬ怪我につながる可能性もあるため、充分に注意することが必要です。
二つ目は、意識的に息を強く吐くこと。ここでは、ストローと綿棒を使った簡易的吹き矢を紹介します。ストローと少し太めの綿棒を用意し、綿棒の先端を細くした状態でストローに差し込み、吹き矢のイメージで綿棒を飛ばすように勢いよくストローを吹きます。毎日少しずつ意識すると、呼吸筋が強くなります。
健康運動指導士、低酸素シニアトレーナー、登山医学会代議員。
著書:「登山体」をつくる秘密のメソッド(地球丸発行)