意識の評価方法を学ぶ
山で傷病者に遭遇した時、「どうしました?」「大丈夫ですか?」と声をかけるのが最初の問いでしょう。
これにどう反応するかが意識の評価になります。この意識レベルの判定はファーストエイド(FA)上、最も重要です。
意識障害があれば「重症度」「緊急度」は高くなります。
意識が障害されているかどうかは外から刺激にどう反応するかによって意識状態を知ることになります。
例えば話しかける、大声で呼ぶ、体を揺らす、痛みを加えるなどへの反応が意識の評価につながります。
それを数値化したのがジャパン.コーマ.スケールです。
Japan Coma Scale (ジャパン.コーマ.スケール)とは
日本で最も普及している意識レベルを評価する方法です。Coma=こん睡状態 覚醒=目がさめている状態(表 参照)
意識レベルは3段階9項目に分かれている
- Ⅰは呼びかけに対して応答できるか(覚醒状態で)?「声の反応」(一桁)
- Ⅱは呼びかけに開眼できるか(刺激に覚醒)?「眼の反応」(二桁)
- Ⅲは痛み刺激に反応できるか(覚醒していない)?「痛み反応」(三桁)
痛みに反応しなれば意識状態が悪いと判断することになります。Japan Coma Scaleの3段階9項目を全て覚えるのは難しいが、3段階(IかIIかIII)は覚えてもらいたい。
例えば、「大丈夫ですか?」と声をかける..「はい、大丈夫です」と、
はっきり答えられるのであれば → 意識は正常でこの意識レベル評価ではⅠに該当しない、
しかし覚醒はしているが問いに対して自分の名前を言えなければ「3」(一桁)レベルという事になる。
呼びかけに応答しない、眼を開けない、腕をつねってみたが反応がないとなればこれは意識状態が最も悪い「300 」(三桁)ということになります。
なぜこの意識評価が必要かと言えば救助隊に傷病者の状態を知らせる時にこの数字評価で言ってもらえばどういう状態なのか解るから救助する側としては全体像をつかめる。
しかし、あなたがこれを正確に覚えるのは難しい。
実際に救助隊に「どういう意識状態ですか?」と聞かれたら「呼べば答えますが名前が言えません」とか「腕をつねっても反応がありませんが...」と答えるか、意識がいまいちはっきりしない「一桁です」、開眼がやっとの「二桁です」、痛みの反応が鈍い「三桁です」と答えても良い。
『目が覚めているかどうか』+『応答反応』→『開眼反応』→『痛み反応』が意識をみる順序ということは覚えて欲しい。
意識レベルの判定で気をつけなければならないのは傷病によってはそのレベルが刻々を変化することがあるので時間経過と共に再度判定が必要です。
意識を悪くする傷病
- 1. 頭部外傷
- 2. 脳内出血
- 3. 脳梗塞
- 4. 熱中症
- 5. 低体温症
- 6. 低血糖症
- 7. ショック状態など
瞳孔は脳障害を見る窓
1. 睫毛反射(しょうもうはんしゃ):睫毛(まつ毛)を指で触るとまばたきをします。まつ毛は三叉神経(脳神経で顔面の知覚の神経)に支配されており、まつ毛に触ることによって脳で反応して顔面神経(脳神経で顔面筋を動かす運動神経)に作用して顔面筋が動きまばたきが起こるのです。この反応が起こらなければ脳活動のレベルが落ちているということになります。(目が覚めているかどうかの判定)
2. 瞳孔反射(どうこうはんしゃ):まぶたを開いて目にヘッドランプの光を当てるとまぶしいために瞳孔(ひとみ)が小さくなります。光を外すと瞳孔は元の大きさなります。この光に対する反応(対光反射)は脳が生きている証拠になります。この瞳孔が広がったがまま(5mm以上)で光に反応しなくなると心臓が停止した状態です。これを瞳孔散大(どうこうさんだい)と言います。(図 参照)
今回のポイント
- 1. 意識の評価はファーストエイド(FA)で最も重要
- 2. Japan Coma Scaleはざっと覚えておこう
- 3. 瞳孔反射は生死の判定にもなる
登攀終了後、頭に落石を受けた登山者がいた。頭皮が切れ、出血していたが圧迫止血で出血は止まった。
最初、受け答えは良好であったが次第に応答が鈍いと思われる意識状態になったため、救助要請を出す。
搬送された病院で硬膜外出血の緊急手術を受けたと聞いた。頭蓋骨と硬膜との間の出血は時間経過と共にジワジワと血の塊を作り大きくなったためにこの血の塊が脳を圧迫して意識障害をきたす硬膜外血腫になったと思われた。山での頭部外傷の経過観察は意識レベルのチェックを頻回にするべきという教訓を残した経験だった。
*硬膜=脳を包んでいる硬い膜で頭蓋骨のすぐ下にある。安全な場所に来るまでヘルメットを外してはならない。
元文部科学省登山研修所専門調査委員
前日本山岳ガイド協会ファーストエイド委員長
NPO災害人道医療支援会常任理事
著書
「災害ドクター世界をいく」東京新聞
「感謝されない医者」山と溪谷社
「トムラウシ山遭難はなぜ起きたのか」山と溪谷社