傷病の評価の仕方と報告
山岳救助の現場では、傷病者から色々情報を集めなければなりません。
医療の現場では、問診、視診、触診などで病状を把握します。
救助を要する場合は、現場の情報を最低限救助者に伝えなければなりませんので、慌てず病状の情報を取るようにしましょう。(図 参照)
1.聞く
本人の名前、住所などをすらすら答える様であれば意識清明(意識がはっきりしている)ということになる。
何が起こったのか?今どこが痛いのかなど、本人の情報を得るために聞きだすこと(問診)にしましょう。
2.見る
傷病者の全身状態を見る場合、自分の視野で一見してわかるように、少し距離をおいて全体像が見えるようにしたい。
顔色蒼白:ショック状態、精神的な驚きetc
チアノーゼ:顔面や唇が紫色になる、心臓や肺の病気で低酸素血症になった時
赤面 : 熱中症、発熱の時
3.血圧計のないところで血圧を知る方法
正確な血圧は、血圧計がなければ測定できないが、
脈拍を触れるだけでおおよその血圧を知ることができる。
血圧は、心臓が縮んで血液を送り出す時の圧力を収縮期血圧といい、心臓が拡張する時の圧力を拡張期血圧と言います。
正常は、120mmHg(収縮期血圧)/80mmHg(拡張期血圧)。
脈拍数は、手首の親指側の橈骨動脈を触れて測定しますが、これを触れただけで収縮期血圧は80mmHg以上あります。
(血圧が下がるショック状態とは収縮期血圧が80mmHg以下になったことを言います)
もう一つ体表で脈を触れるところは、頸動脈で、ここで脈が触れれば収縮期血圧が60mmHgあることになる。
脈拍が触れれば心臓は動いていて、ある程度血圧を保っているということになります。
4.マヒの見方
知覚:皮膚の感覚、例えば熱い、冷たいと感じるのが皮膚感覚です。
この温度の感覚、ものに触った感覚は、全て知覚神経によって感じている。
この感じ方が違ってくると知覚神経障害起こしていることになります。
感覚を調べるとき、布や紙などで両手の皮膚を交互になでるように触ってみる。
触った感触に左右差があれば、感触の薄い方が知覚障害を起こしていることになる。(感覚を調べるときは、無機質な紙や布で触ること。)
人間の皮膚感覚はみな同じなので、もし右手の感覚が左手の感覚と違うのあれば、その右手と顔面との触覚の違いを比べてみて右手と顔面の感覚に違いがあれば、やはり右手の知覚神経が障害されていると判断がつく。
手の知覚障害(左右差)がある場合は、頚椎損傷などの首に障害を受けたことが推測される。
運動:運動神経の障害は、関節が動くか筋力があるかで判定する。
膝や足首の関節が左右とも動かせるようであれば、下肢の運動に問題はない。
下肢の筋力の評価測定は難しい。
上肢のもっとも簡単な筋力の判定は、握手の力で判定できる。
筋力の評価法は「5~0」の6段階で評価している。(主観的評価です。)
握手して思いっきり握ってごらんと左右の握力を比較してみる。
ギュウと抵抗のある握り返しがあれば筋力(握力)は「5」と評価します。
全く握る力がなければ「0」と評価します。
左が「5~4」の握力があり、右が「1~0」の握力しかなければ、
右の運動神経マヒがあり、外傷であれば頚椎の損傷、病気であれば脳梗塞とか脳内の障害を考えます。
いずれにしてもマヒが認められた場合は、「重症性」「緊張性」が高く救助要請が必要です。
傷病者を受け入れる病院は、こんな情報が欲しい
現場から救助隊へ、そして病院への引き継ぎ時にはある程度の情報を伝えて欲しい。
(できれば記載で)最低でも以下の情報は取っておきたい。
日時: 月 日、午前・午後 時 分
氏名:
性別: 男・女
年齢:
原因: 転倒 転落 滑落 落石 雪崩 その他( )
部位: 頭部 頸部 胸部 腹部 骨盤 上肢 下肢
左右: 右 左 両側
出血: なし 多量 中等量 少量 継続中 止まっている 場所( )
意識: ある なし 弱い (JCS 点)
瞳孔: 光反応ある 光反応なし
呼吸: ある なし 弱い
脈拍: 正常 弱い ( 回/分)
痛み: ある なし 場所( )
痙攣: ある なし
麻痺: ある なし 場所(右 左 両側)
嘔吐: ある なし
顔色: 普通 悪い チアノーゼ
精神: 普通 不穏
記載者名:
連絡先:
サイン:
今回のポイント
- 血圧を知る方法
- マヒのある時は緊急性が高い
- 現場での情報が欲しい
元文部科学省登山研修所専門調査委員
前日本山岳ガイド協会ファーストエイド委員長
NPO災害人道医療支援会常任理事
著書
「災害ドクター世界をいく」東京新聞
「感謝されない医者」山と溪谷社
「トムラウシ山遭難はなぜ起きたのか」山と溪谷社