血管と血液の役割を知る
登山中に多量の出血を伴う事故は、救命が困難な場合が多い。
止血の基礎として血管と血液のメカニズムを学びましょう。
血管とは
心臓から最初に出て行く血管の太さは2.5cmありますが、指先の毛細血管は髪の毛の1/10ぐらいの細さになります。
動脈は、平滑筋という筋肉で包まれてあるためにゴムのように弾力性があり、血菅の太さを変えることができ、血流や血圧を調整することができます。しかし、静脈にはその機能がありません。(図 参照)
主な動脈は、外力を受けにくい体や手足の真ん中を通っています。
体の表面に出てきた動脈は脈拍の触れる場所です。
動脈はたいがい主要な神経と並行して走行してます。
寒冷によって体熱を逃がさないために血管が収縮すると、細い血管は血流が悪くなって凍傷になることがあります。
血液とは
血液は細胞成分(赤血球、白血球、血小板など)と液体成分である血漿に区別され、その割合は血漿(水分)55%、血球(個体)45%になります。(図 参照)
血液には四つの役目:
1)酸素、二酸化炭素、栄養、熱を運ぶ運搬役
2)体液量や酸アルカリ性を一定に維持する役目
3)血管の破れを修復する止血の役目
4)生体に入ってき病原菌を処理する役目
動脈血は、心臓のポンプ作用で押し出され、全身にくまなく送り出されますが、静脈血は自分の力で心臓に戻って来ることができません。
骨格筋が縮んだり伸びたりすることにより、そのポンプ作用で筋肉の中の静脈血管が押されたり伸びたりする事によって、血液が心臓に戻っていきます。
静脈は、血管内に静脈弁があり逆流しないようになっています。飛行機の中に長く座っていると、エコノミー症候群になるのは運動しないので足の静脈の流れが悪くなって血の塊(血栓)ができて、それが肺に飛んで肺動脈に詰まって呼吸困難となり、最悪の場は死に至ります。
地震災害の時に車の中に長時間避難しているとこれと同じことが起こります。
また、酸素が少ない高所に行くとより少ない酸素を赤血球に取り込むために赤血球が増加し、血液は濃縮された状態になり、細い血管はつまりやすくなり脳血栓などを起こすことがあります。
ヘモグロビンの役目
赤血球の中のヘモグロビン(鉄分)が酸素と結合して、全身に酸素を運搬する役目をします。
これが各組織や体の隅々は運ばれヘモグロビンから酸素を離し、組織に酸素を供給したのちに、二酸化炭素と結合して心臓に戻ってきます。
このヘモグロビンが酸素と結合する割合を「酸素飽和度」いい、これを測定するのがパルオキシメーターです。
酸素飽和度は96~99%が正常で、90%以下になれば体内に充分な酸素が送れない状態ということになります。
その値は、高所順応や高山病の指標に用いられることがあります。
高地トレーニングをすれば赤血球が増えて酸素運搬能力を向上させることができます。
しかし、高所に長くいると血液の個体成分(赤血球)が増え、血液がドロドロになる恐れがあります。
これは血液の流れを悪くしますので、高所での水分の取り方が重要になってきます。高所で手足の凍傷になりやすのは、血液がドロドロになって毛細血管の血流が悪くなるのも要因です。
また、体温が下がると血液の温度が下がり、酸素と結合したヘモグロビンから酸素が離れにくくなって、脳の酸素不足につながってしまいます。(低体温症の時、意識障害が早期にくるのはそのためです)
出血とは
動脈から出血は、血圧があるのでピュ-ピュ-と勢いのある出血ですが、静脈からの出血はジワジワと流れ出るような出血です。
血管が破れ出血したら、この破れた場所を塞ぐ役目が「血小板」です。
破れたところに血小板同士がくっ付きあって、血栓を作ります(蓋をするように)。これだけでは弱いので、血液中にあるフィブリノーゲンという物質が、フィブリンという線維素に転換し、この血栓上に網目上に包み補強されて、血管は修復されて出血は止まります。(図 参照)
圧迫止血は、出血部上を圧迫することによって血流が遅くなり、血小板が集まりやすくなって血栓を作りやすくします。
手足の外傷の出血は、手で圧迫する止血法でほとんどが止まります。
山で止められない出血は、脳出血、胸部出血、腹腔内出血、骨盤内出血などがあり意識障害、ショック状態に陥ることが多く、救命が困難な場合が多い。
頭部や顔面は、出血量が多い。この部位は、血管が豊富なためで小さい傷でも出血量が多いように見える。
血管が豊富なところは傷の治りも早い。
人間の血液量は、体重の8%と言われております。
体重50Kgの人なら、50x0.08=4リッターの血液が体内にあります。
血液量の20%を失うと「出血性ショック」になり、30%を失うと死亡するとされています。
50Kgの人であれば約1200mlの出血量で生命が危ない状態になります。
例えば、骨折と出血量の関係ですが、大腿骨の皮下骨折で約1000ml の出血、大腿骨の開放性骨折で2000ml の出血、骨盤骨折で1,000~4,000ml程度の出血が予想されます。
指先の出血はなぜ止まりにくいか?
指先を包丁やナイフで切ってしまい、傷の周囲をおさえてもなかなか血が止まらなかったという経験者が多いと思います。
指先は、心臓から最も遠いところで血管の最終地と言っていいところであり、動脈と静脈は繋がる動静脈吻合部(動脈と静脈がつながっているところ)と言われる場所でもあります。
指先からの出血は、圧のある動脈血が混じるために出血なかなか止らない。(図 参照)
指先に限らず毛細血管のあるところは、この動脈吻合部で酸素と二酸化炭素、栄養と老廃物の交換が行われています。
止血の方法としては、出血部を圧迫するのと同時に、指の両サイドの指動脈を指の側面をつまむ様に止血します。(図 参照)
今回のポイント
- 血液の役割を知っておこう
- 酸素を運搬するヘモグロビンの役目
- 止血のメカニズムを知っておこう
出典
からだのしくみ事典 浅野吾朗 成美堂出版 2013
生理学の基本がわかる事典 石川隆 東西社 2011
元文部科学省登山研修所専門調査委員
前日本山岳ガイド協会ファーストエイド委員長
NPO災害人道医療支援会常任理事
著書
「災害ドクター世界をいく」東京新聞
「感謝されない医者」山と溪谷社
「トムラウシ山遭難はなぜ起きたのか」山と溪谷社