体液のバランスと熱中症
脱水は体の水分と電解質のバランスがくずれると起こります。
熱中症にならない対処法を学びましょう。
体液のバランスとは
環境温度が上がると、人間は末梢血管を広げて熱を逃がそうとし、汗をかいてその気化熱で体表の温度を下げようとします。
人間の身体の60%は、水分で構成され、それは体重の2/3を占め、体重の3%の水分を失うと体温調整が困難になります。
体液は、細胞内液と細胞外液に分けられます。
体液の成分は、水分と電解質(細胞内液にはカリウム、マグネシウム。細胞外液には、ナトリウム、クロールが含まれる。)から成っている。
電解質は、体内の水分量を調整し、浸透圧、PHを正常に保つこととで、筋肉が刺激を受け、正常に反応するためにも重要な役割をします。
汗には、0.3~0.8%の電解質を含んでいます。
暑さで大量の汗をかくと、水分とともに電解質も失うことになります。
汗の電解質は、ほとんどがNaCl (塩分)です。
人間の一日の水分摂取量は、飲料水、食物などから約2200~2500mlで、尿や汗から約2200~2500mlの水分が排出されバランスが取れている。
登山中の水分喪失量はどのくらいなのか?
気温28℃以上で行動すると、約1800mlの汗をかく。
これに湿度が高いと、汗の量はもっと増える。
1000mlの汗をかくと、約3gの塩分を失うと言われる。
これは、小さじ半分の塩か、梅干し2個か、たくあん6切れに値する。
山本によれば、運動中の脱水量(ml)=体重(Kg)x 行動時間(h)x5 と推定しています。
熱中症とは次の4つを総合したものを言う。
1)熱ばて=発汗→水分欠乏→脱力感、倦怠感、頭痛、吐き気などの症状を起こす。
2)熱痙攣=発汗→塩分の喪失+水分のみ摂取→塩分の低下を招く→筋肉の痙攣を引き起こす。
3)熱失神=高温下で運動→筋肉の血流量増加+皮膚血流量増加しますが→発汗によって水分欠乏するため→全体の循環血液量は減少し→静脈圧、血圧共に低下し→脳血流量が減少するのでめまいを起こし失神状態になる。
4)熱射病=体温上昇→脳の体温調整機関(視床下部)が機能しなくなり→著しい体温上昇→意識障害を起こし死亡率が高くなる。この症状は段階的にくるので早め早めの対処が必要になります。
熱中症の症状とは(図 参照)
1)汗が激しくでる。
2)喉がカラカラになる(脱水の始まり)。
3)ヨロヨロする。
4)めまい、頭痛がする。
5)周囲が暗くなる感じがする。
6)喋れなくなる。
7)吐き気がする。
8)意識が薄れ、眠くなる。
9)昏睡状態になる。
*歩行がヨロヨロしたころには対処方法を取らなければいけない。
外見から見る判断
1)体に触ると皮膚が熱い。
2)皮膚が乾燥してカサカサしている。
3)顔面が紅潮している。
4)脈が早くなる。
5)呼吸数が多くなる。
6)応答しなくなる。
水分の取り方とは
水だけでは脱水は改善しないので、電解質を含むスポーツドリンクを併用する。
水だけ補給しているとかえって電解質が薄まってしまいます。
飲水量は、天候、温度、体調合わせて脱水量と同じになるようにしましょう。
行動中は、こまめに水分を取る。
夏山では1.5L以上の水は持ちたい。
朝の出発時にコップ一杯の水をとるようにする。
梅干し、塩コブ、塩飴etcを行動中に取る。
喉の渇きは飲水する目安になる。汗と尿の量も飲水の目安になる。
スポーツドリンクがない場合は、水1Lに食塩3g(小さじ半分)、砂糖40g(大さじ4杯)で作る。
市販の「OS1」(ドリンク用、ゼリー用、粉末がある)は、脱水の改善にお勧めです。
熱中症になった時の対処法
日陰を選び、衣服を緩め、うちわなどで風を送る、体を水でぬらしてあおぐ。
頭を冷やす、意識がはっきりしていれば水分と少量の塩分を飲ませます。
炎天下での行動は帽子と体温調整のできる服装で行いましょう。
意識障害を起こしている時は、早期の救助要請が必要です。(図 参照)
今回のポイント
- 登山は夏.冬山限らず水分補給が大事
- 熱中症=脱塩分.脱水症と認識する
- 熱中症状には早期自覚と対処を
*参考文献
山本正嘉 登山の運動生理学とトレーニング学 東京新聞 2016
元文部科学省登山研修所専門調査委員
前日本山岳ガイド協会ファーストエイド委員長
NPO災害人道医療支援会常任理事
著書
「災害ドクター世界をいく」東京新聞
「感謝されない医者」山と溪谷社
「トムラウシ山遭難はなぜ起きたのか」山と溪谷社