あなたは呼吸や心臓が停止直前の状態を見たことがありますか?
今、心臓が止まった人がいたらどうしますか?
山岳事故でも少なくない心停止。
今回は、心停止の見極め方や対応方法のメカニズムを学びましょう。
心停止の症状と対応方法とは?
1)意識がない(J.C.Sで痛み反応しない)
2)呼吸をしていない(胸の膨らみ運動がない)
3)脈が触れない
4)顔面が蒼白
5)爪床圧迫法に反応しない
以上が心停止の症状になります。
これを確認したら、心肺蘇生を直ちに開始しなければならないが、医療関係者でもないあなたが心停止兆候確認に時間を費やしていたら、脳に行く血流の止っている時間は長くなってしまいます。
では何を見たらいいでしょう?
心肺停止の直前に呼吸の「死戦期呼吸」という症状があります。
下あごを引くような、胸のふくらみがない下あごで呼吸するよう症状です。これは心臓が止まる直前です。
ここで直ぐに「胸骨圧迫法」を開始します。
胸骨圧迫法は、心臓マッサージと言われてきましたが、現在では心臓マッサ —ジと言わず「胸骨圧迫法」というようになりました。
この方が心臓のある位置がわかりやすく確実だからです。胸骨とは胸板のことでこの下に心臓があります。
心肺蘇生法はC.P.R (Cardio Pulmonary Resuscitation) と言います。
C.P.Rの目的は、止まった心臓を動かすということはもちろん、脳への血流を途絶えさせないように、一刻も早く脳に酸素を送るようにするために必要なことなのです。
心臓が止まって2分以内にC.P.Rを開始すれば90%の救命率がえられます。(図 参照)
以前はC.P.Rとして30回心臓マッサージを行い2回人工呼吸を行うようにと教えられてきましたが、現在では即「胸骨圧迫法」を100回以上/分 行うように言われております。この胸骨圧迫は人工呼吸よりも最優先です。
では人工呼吸はしなくてもいいのか?
そんなことはありません、人工呼吸をする場合は胸骨圧迫を止めても10秒以内にとどめてください。これは脳へ行く血流を絶やさないために短時間にとどめておこうということです。もし救助者が二人以上いる場合は人工呼吸を併用してください。
心肺蘇生方法をマスターしよう
まず、胸骨圧迫法は、傷病者の右でも左でも自分のやりやすい側に膝をついて行う。(図 参照)
手を組むようにして肘を曲げないで胸板に体重がかかるように真上から圧する。
胸板が少なくとも5cm沈むように。体重をかけて胸骨下で心臓を圧迫し、体重を抜いた時に心臓に血液が戻ってくるようなイメージで数を数えながら行う。
肋骨にはゴムのよう肋軟骨があるので合わせた手が胸骨から離れていなければ肋骨骨折は起こしにくい。(図 参照)
救助者が疲れると圧迫力やリズムが悪くなりますので交代者がいれば変わりましょう。
心肺蘇生はいつやめるのか?
1)有効な呼吸と心臓の動きが戻った時
2)二次救急に引き渡す時
3)自分に身の危険が迫った時
4)時間の制限はないが長時間(1時間)蘇生を行っても反応ない時
人工呼吸の注意
気道(口から気管、肺への空気の通り道)に異物がないか、気道が充分確保されているかを確かめる。意識がなくなると舌の根の部分が沈下して気道を塞いでしまうことになる。これでは人工呼吸しても空気が肺に達しない。それを改善し、空気を取りやすくするのが頭部後屈法と下顎挙上法である。(図 参照)
雪崩に巻き込まれて口の中に雪が詰まっている時は直ちに口の中に指を入れて吐かせる。(図 参照)
頭部の後屈位をとり、鼻から空気が漏れないように鼻をつまんでマウス to マウスで空気を吹き込む。600mlで吹き込むときに胸が充分膨らんでいるかを見る。(図 参照)
マウスtoマウスの時は直接口をつけることを避け、ビニールやハンカチに穴を開けてそこから息を吹き込む。
AED(Automated External Defibrillator 自動体外除細動器)があったら何時使用するのか?
日本の山小屋にはたいがいAEDがある。AEDは「心室細動」にしか効果がありません。完全に心停止した場合にはAEDは無効です。心室細動とは心室の興奮が一定のリズムがなく、心臓がブルブル痙攣したような状態で、心臓から血液を押し出す能力がない状態です。心電図で見ると不規則なリズムで心臓の拍動のない状態を示しています。(図 参照)
心室細動にAEDを使用すると電気ショックにより元のリズムに戻り心臓が正常に動き出します。
全て音声で自動化されているので誰でも扱えるようになっています。ただし充電式なので充分な充電がなされているか管理者はチェックが必要です。
AEDが先か、胸骨圧迫が先か?
自分の目の前でたった今心停止が起こったと思われる時、AEDがあればAEDが先、心停止した時間がわからない時は胸骨圧迫が先。
心停止したのにAEDを装着すれば音声で「AED無効」と答えるの で胸骨圧迫に切り替える。
近くにAEDがあり持ってくるまでの時間は胸骨圧迫をしながら待ちましょう。
通電用パットは直接胸の肌に装着するので女性の場合は配慮を考える。
AED=電気ショックなのでショックを与える直前に要救助者の体から救助者は離れ、要救助者の体から金属を離さなければならない。
AEDは自動解析ですからその効果によって「再度ショックが必要です」「胸骨圧迫を続けてください」と音声が知らせる。
心臓の動きがこれで再開したかどうかは頸動脈の脈拍を触ってみる。
胸に耳をあてて鼓動を聞くなどして確かめる。
心停止が再開して心臓が動き出すと顔色などがよくなる兆候が見られる。(図 参照)
今回のポイント
1) 心停止直前の死戦期呼吸を覚えておこう
2) 脳血流を保つため胸骨圧迫法は最優先
3) AEDは心室細動のみ有効
元文部科学省登山研修所専門調査委員
前日本山岳ガイド協会ファーストエイド委員長
NPO災害人道医療支援会常任理事
著書
「災害ドクター世界をいく」東京新聞
「感謝されない医者」山と溪谷社
「トムラウシ山遭難はなぜ起きたのか」山と溪谷社