傷からバイ菌が入るのが怖い創傷。時に感染症を起こすことも少なくありません。
もし、あなたや仲間が創傷を受傷してしまった場合、適切な対処ができますか?
今回は、創傷の基礎と止血方法を学びましょう。
創傷の基礎と処置方法
まず、人間の皮膚の仕組みと、皮膚損傷の形状を学びましょう。
皮膚損傷の状態によって処置方法が変わります。
人間の皮膚は三層からなっている。表皮 → 真皮 →皮下組織(脂肪層など)。
皮膚損傷は形状によって分類:
1) 皮膚の表面がえぐられたような傷 :サッカ創
2) 枝、釘で刺されたような傷 :刺創
3) ナイフで一直線に切ったような傷 :切創
4) 深くえぐられた傷 :裂創
5) つぶされたグシャグシャな傷 :挫滅創
傷の面積が広く深ければ軟部組織の損傷の他に血管損傷、神経損傷、腱損傷などを起こしている可能性が高い。(図 参照)
皮膚を損傷するということはバイ菌が入りやすく化膿しやすくなる。
特に傷が深く脂肪組織に達していると感染し化膿しやすい。
傷のファーストエイドはこの感染をいかに少なくするかが大きなポイントである。
感染は受傷後2〜8時間の間に起こりやすい。
創処置の順序
1)泥や砂などがついてない傷
消毒、止血をして可能な限り清潔なガーゼ等で覆い包帯をする。
小さな傷であれば絆創膏付きのガーゼ、バンドエイドで十分。
2)泥や砂などがついている傷(汚染創)
山で怪我した時には泥や土、草などが傷の周り付着しやすく感染しやすい。
汚染創の処置
傷全体が観察できるようにズボンや服を切り、傷の周囲が汚いか、大きさ、深さ、出血部位などをよく見る。
周囲が汚ければ流水で圧をかけて洗い流す。(図 参照)
異物(泥、砂利、草など)を水圧で飛ばすようにして洗う。
ペットボトルで水を持参しているときはボトルの蓋にナイフで穴を開けペットボトルを握ると水圧のかかった水で傷を洗うことができる。
穴を開けた蓋をいつも一個持っていれば傷を洗う時に役立つ。メーカーによって蓋の違いがあるので要注意(図 参照)
充分に傷周囲を洗ったらガーゼなどで水分を拭き取る。
消毒薬があったら消毒する。出血があれば圧迫止血をする。止血ができたらできるだけ清潔なガーゼなどで覆い包帯をする。
汚染創の処置は:傷の洗浄 → 消毒 → 止血 → 傷の閉鎖の順に行う。
止血の仕方と注意点
止血の仕方によって、重大なミスになりうることもあるので、しっかりと押さえておきましょう。
止血の仕方
出血部を時間をかけて圧迫するとたいがいの出血は止まる。
血液には直接触れないようにビニール手袋やビニールの買い物袋などで自分の手を覆う。
傷の上に綺麗なガーゼやタオルを置いて上から手で圧をかけるようにして圧迫する。
最低でも10分ぐらいはそのまま押さえておこう。
止血しながら搬送したい時、止血に時間がかかる時はタオルや布をテーピングテープでぐるぐ巻きにしたものを傷の上に置き包帯を巻く方法もある。
これは持続圧迫止血包帯になる。(図 参照)
手足を三角筋などで縛り木をねじ込んで縛り上げる止血方は、手足が切断されたり、縛り上げた先の生存が見込めない時以外の止血法としては行うべきではない。
四肢を縛り上げて全体の血流を止める制限時間は60~90分で縛り上げた時間を忘れてしまうと正常な筋肉の壊死や神経麻痺を起こす恐れがあり、重大なミスになりうる。(図 参照)
傷の閉鎖
傷が直線的や浅い傷であれば傷を閉鎖すれば出血は止まり確実な傷の応急処置ができる。
テープを適当な長さに切って傷を合わせるようにして閉鎖すれば簡単でいいが、より傷を合わせる力(張力)を引き出させるにはテープを蝶々の様にカットして貼り合わせると傷の閉鎖に優れたものになる。(図 参照)
今回のポイント
1)汚染創は洗え
2)圧迫止血は出血部じっと押して待て
3)創閉鎖は蝶々型テープで止める
元文部科学省登山研修所専門調査委員
前日本山岳ガイド協会ファーストエイド委員長
NPO災害人道医療支援会常任理事
著書
「災害ドクター世界をいく」東京新聞
「感謝されない医者」山と溪谷社
「トムラウシ山遭難はなぜ起きたのか」山と溪谷社