日本の山岳地帯でも、多く起こる高山病。
高山病とはどんなものなのか?
今回は高山病のメカニズムを知り、適切な対処方法を学んでいきましょう。
高山病とはどんなもの?
高山病は低酸素環境の高所で起こる病気である。
高山病は2500m以上で起こるとされています。
高地到達後6時間後に発症し、その環境に3~4日で順応すると症状が消失することが多い。
高山病はなぜ起こるのか
血液中の赤血球の中のヘモグロビンが肺で酸素と結合する。
このヘモグロビンと酸素が結びつく割合を示したものが「酸素飽和度」である。
海抜0mであればほぼ100%に近い状態で酸素と結合した割合になるが、高度を上げるに従い気圧低下、空気中の酸素が薄くなるので酸素飽和度は低下して行く。
低酸素に最も弱い脳は、最初に反応して頭痛を引き起こす。
少ない酸素をより多く取り込もうとするために呼吸数が頻回になる。
これが続くと呼吸性アルカローシスと言って血液がアルカリ性になる。
脈拍数も多くなり心臓が一回に送り出す血液量(心拍出量)が減少して心肺機能に大きな影響を与えるようになります。
高山病の分類
1. 急性高山病
新しい高度に達するとまず最初に頭痛が現れる。
吐き気、嘔吐、食欲不振、だるい、フラフラする、睡眠障害、意識がもうろうとする。
2. 高地脳浮腫
急性高山病の重症例に移行するとまっすぐ歩けないなど運動失調になり、次第に意識障害になる。脳全体がはれた状態になる。
3. 高地肺水腫
肺に水が溜まった状態になり、安静時呼吸困難、咳、起座呼吸、呼吸音が笛を吹くようなヒューヒュー音になる。(図 参照)
図は、肺水腫のレントゲン写真で左右の肺が白くなり、水が溜まっている状態。
高山病の自己評価と対処法
高山病の自己評価方法
高山病を自己評価する方法は表を参照する。(表 参照)
①(自己評価)あるいは①+②(自己評価+臨床評価)のどちらかの点数が3以上あれば急性高山病と判定する。
②の臨床的評価は他人(医者など)が見て判定することになります。
臨床的評価に点数が高ければ高山病としては重いことになります。
自己評価できなくなったらかなり重いということになります。
高山病と思われたら
症状は「夜」に悪化しやすい。
高山病と思われる人がいたならば一人にせず病状を観察したい。
激しい頭痛、起座呼吸(高所にいると呼吸数が早くなり、これを補うために肺に行く血液量は増えてしまう。
すると肺の中の毛細血管の圧が高くなるために血管内から水分が外に漏れ出す。これが肺に水が溜まる始まりである。
(この前に呼吸が苦しくなるために座った状態の方が呼吸が寝ているよりは楽になる、その姿勢を起座呼吸という)。(図 参照)
起座呼吸を取るようになったら下山(高度を下げる)した方がいい。
著者の調査によれば4000m付近から高山病の症状有無とは関係なく尿の比重が高くなり、尿量が減少する傾向が見られた。
これは呼吸数が多くなるために呼吸から逃げる水分が多くなること、より少ない酸素を取り入れるために赤血球が多くなるために血中の水分が少なくなったため、腎機能の低下などが起こり、高所による脱水はこの地点から急速に始まるものと思われた。
高山病の壁は4000mに最初にあるのでは考えられた。
パルスオキシメーターは高山病の指標に役立つか?
パルスオキシメーターは、動脈血酸素飽和度(SpO2)を測定する装置です。(図 参照)
動脈血の中を流れている赤血球に含まれているヘモグロビンと酸素とがどれだけ結合しているかを皮膚を通して測定するもので酸素の薄い高所では高山病の指標として役立ちます。
およその動脈血酸素飽和度
海抜0mのSpO2:95%以上
富士山頂上のSpO2:85%
エベレストのベースキャンプのSpO2:60%以上
8000m以上(デスゾーンと呼ばれるの)SpO2:40%以下になる。
SpO2は睡眠時に低下する。
高所登山においてはパルオキシメーターを持参し、症状と合わせてその程度を知る指標にするべきである。
SpO2の数値が低下し、呼吸、脳症状など伴うようであれば直ちに下山するべきである。
ダイアモックスは高山病に効くか?
ダイアモックスは炭酸脱水素酵素抑制薬と言われ、炭酸脱水素酵素は腎臓や脳、目などにある酵素で水分と炭酸ガスの反応に関わっている。
高山では呼吸数が多くなると呼吸性アルカローシスという血液がアルカリ性になってしまう。
ダイアモックスは重炭酸塩を排泄し、塩分と共に水分を尿として排泄を促し呼吸性アルカローシスを治す役目がある。
普段は、緑内障などに治療に使われる薬である。
高山ではこの呼吸性アシドーシスを改善し呼吸が楽になったり、顔面などのむくみが改善する。
副作用は吐き気、食欲不振、尿が近くなることがある。
ダイアモックスは医師の処方がなければ手に入らないし、高山病には薬事としては適応外になっている。
高山病=ダイアモックスとして安易に使用するべきではないが、効果的あるので使用するのであれば医師との相談が必要である。
高山病の対処
「下山が最良の治療」である。
高所登山は、高所順応が最も大切であるから登ったり降りたりして体を高度にならしていくしかない。
登りはゆっくりと、高度は1日500m以上登ってはならないとされている。
睡眠障害に睡眠薬は厳禁(高山病を悪化させる)。
酸素吸入は良薬であるが環境が起こした病気であるから下山が一番。
水分を十分に摂ることが重要。
疲労度、食欲、睡眠、尿量、思考力などを自己チェックすることも大切である。
今回のポイント
1. 高山病は自己チェックできる
2. パルスオキシメーターの測定は有効
3. 高山病には下山が良薬
元文部科学省登山研修所専門調査委員
前日本山岳ガイド協会ファーストエイド委員長
NPO災害人道医療支援会常任理事
著書
「災害ドクター世界をいく」東京新聞
「感謝されない医者」山と溪谷社
「トムラウシ山遭難はなぜ起きたのか」山と溪谷社