長時間の登山を安全に楽しく行うために必要なのは、ペース配分です。自分に合ったペース作りに必要な指標が「心拍数」や「主観的運動強度」です。自身の登山中の様子を測定することで、快適なペース作りができるようになります。
登山に最適なペース配分を知るには
登山を行う際、行動時間は長時間になることが多いです。
また、縦走などでは、長時間の運動を何日間も行うこともあります。
長時間の運動を継続するためには、それに見合った体力を備えておく必要があります。
そのため、前回までは筋力や体力を増加させる方法と、ケアをする方法を記載しました。
しかし、いくらトレーニングを積んでも限界はあり、負荷が高すぎると運動を続けることができなくなります。安全に、そして快適に登山を続けるためには、自分にあったペースを知り、そのペースで行動することが大切です。
①心拍数からペースを知る
ペースを知るための手段として、最も有効な指標に「心拍数(脈拍数)」があります。
登山中でも時々心拍数を測ることで、安全・そして快適なペースを把握することができます。
登山に最適なペースは最高心拍数の75%以下で歩くことだと言われています。
75%以上で歩くと、乳酸が蓄積してしまい、歩行が長時間継続できなくなるのです。
では、最高心拍数というのはどのようにして求めるのでしょう?
心臓の大きさや強さは個人差があるため、それを考慮して計算する必要があります。
最高心拍数を求めるための最も正確な方法は、心拍計を装着し、数分間で運動が継続できなくなるような全力運動を行った際に心拍計が示す最高値を求める方法で、その時の最高値が「最高心拍数」となります。
しかしこの方法は簡単にできないために、計算式を使って簡易的に求めることができます。
この式から求めることができた値よりも低い心拍数であれば、疲労を溜めることなく、長時間歩くことができます。
登山中に心拍数を測定する方法は、心拍計を使う方法や触診で測定する方法があります。
最近は登山用時計に心拍数を測定できる機能が備わっている物もあるので、それを使ってみるのもお勧めです。また、触診で測定する際は、手首の橈骨動脈で10秒間測定し、その値を6倍して求めてみましょう。
②主観的運動強度(RPE)からペースを知る
心拍数を測定しながら登山に最適なペースを判断することは大事ですが、もっと簡易的にペース作りができる指標が、主観的運動強度(RPE)です。
登山中などの運動中に、体に感じるきつさを6〜20の範囲内で表す方法です。
登山を快適に行うためには、この指標の「13(ややきつい)」と感じるペース以下で歩くことが必要です。
13以上のペースで歩くと乳酸が溜まってしまう可能性が高いことがわかっています。
登山中に「少しきついな」と感じたら、少しペースを落とすことが大事です。
登山を快適に続けるためには、「マイペース」を知っておくことが重要で、そのためには心拍数や主観的運動強度を意識しながら歩いてみてください。
また、グループで登山をする際には、心拍数やRPEはお互いの疲労度を確認するためにも、目安となる指標です。
✴︎トレーニングを重ねたり、山行を重ねたりすると、心臓が強くなるために安静時心拍数が下がったり、同じ速度で歩いている際の主観的運動強度が低くなったりします。
そのため、時々、安静時心拍数や運動中の心拍数を測定して、客観的に判断することが大事です。
健康運動指導士、低酸素シニアトレーナー、登山医学会代議員。
著書:「登山体」をつくる秘密のメソッド(地球丸発行)