山岳ガイドへの相談
登山中はこまめに水分補給をしているつもりなのですが、下山すると、即、冷たい炭酸ドリンクを購入し、その場で一気飲みします。よく考えると、この渇きっぷりは「登山時の水分補給が足りていない」ということですよね。登山中の上手な給水方法やコツ、セオリーがあれば、教えていただけるでしょうか。よろしくお願いします。
今回は「水分補給の目安」について考えてみましょう。
実際のところ、どのくらいの水分を摂ればよいのでしょうか?
登山者の方々にこの質問をすると、実にいろんな答が返ってきます。
「一日に1L」「一日に2L」といった、具体性のある答。
「のどが渇いたら」「のどが渇く前に」といった、症状を基準とした答。
量に関して具体性があると、一見分かりやすいように感じますが、これを絶対視してしまうのは危険かもしれません。登山は、とても個別差が大きい活動です。各個人の体格、天候、温度や湿度、風、日照条件、歩行距離、アップダウン、ルートの難易度…等々。当然必要となる水分量には大きな差が出ます。このことを踏まえると、基準となる量はあえて決めない方が安全なのかもしれない、とさえ考えてしまいます。
また、「のどの渇き」という症状は、必ずしも脱水の程度を正確に反映していないことがあります。日頃患者さんを診ていると、画像評価や血液検査で著しい脱水状態であっても、のどの渇きを訴えない方がおられます。
では、もっと確かな指標になるものはないでしょうか?
脱水の程度や、それがどのくらい補えているのかを、ある程度正確に反映してくれるのが「尿」であると考えています。
自分が普段の日中や夜間にトイレに行く頻度、一度にどのくらいの尿が出るか、その色調といったものを、考えてみたことがありますか?
一般的に脱水状態になると、トイレに行く頻度や一度に出る尿の量は減り、また色が濃くなります。(夜間には尿を濃縮して量を減らすホルモンが分泌されますので、日中よりも排尿回数が減るのが普通です)
山の中ではトイレの場所も限られており、通常通りの回数を期待するのは実際問題として難しいこともありますが、登山中に少しこのことを思い出して、水分の摂取量を考えるきっかけとしてはいかがでしょうか。「しばらくトイレに行ってないけど、行きたいと感じないな」「さっき山小屋でトイレに行ったけど、あまり出なかったな」…これらは脱水のサインかもしれませんよ。
また、水分だけでなく、電解質、特に塩分が不足すると筋肉の痙攣が起こりやすくなります。「足が攣る」というのはこの筋肉の痙攣を指しています。スポーツドリンクや経口補水液、塩飴、岩塩など、水分と併せて意識的に塩分を摂るよう心がけてください。
なお、心臓や腎臓の働きに問題がなければ、通常は余分に摂取した水分や塩分は汗や尿から適切に排泄されます。心臓や腎臓の持病がある方は、主治医の先生に水分や塩分の摂取について一度相談してみると、安心かもしれませんね。
喉の渇き具合と量を目安にするのは絶対とは言えない・・・というのは、初めて聞きました。びっくりです。また、尿に着目するのも知りませんでした。ご相談してよかったです。
「量」と「尿」、「塩分」を頭に置きつつ、登山を楽しみたいと思います。
ありがとうございました!